小笠原諸島には未だに多くの戦跡が残っている。
終戦から70年近く経過しているにもかかわらず、
施設のあとだけではなく、大砲がそのまま残っている珍しい島だ。
実際には父島、母島、聟島各列島では大きな戦闘は行われなかった。
小笠原諸島の南に位置する硫黄島が戦争の舞台になったことは
映画や本になるくらいなので知っている人も多いと思う。
終戦とともに小笠原はアメリカの施政下に入る。
なぜそのあと、そういう施設をほったらかしにしたのかはよくわからない。
現在、崩壊などの危険を伴うものは順次回収されている。
しかし、山奥にあるものは手を付けられることなく放置され、
戦跡ツアーで見て回ることができる。
(どうやら、年配の人に人気があるみたいだ)
大きな戦火を浴びなかったとはいえ、戦跡には異様な空気が漂う。
南国特有の植物たちに囲まれた戦跡。
内地にはない戦争のにおい。
青い海に沈む沈没船
ジャングルに囲まれた大砲
軍用車が放置された山道
浸水しているトーチカ
戦跡を巡るにつれて、戦争が遠い昔の出来事なのだと感じられた。
でも、それは日本での話。
遠い国では今、現在の出来事なのだ。
迷彩服を着た軍人がジャングルを駆け抜ける。
同じ人間を狩るために・・・。
想像が僕の胸を締め付ける。
海軍の幹部が集まり会議を開いた円卓がある
その大きな石でできた円卓の上にユウコクランの芽が生えていた。
自然が少しずつ自分たちの居場所を取り戻していた。
そういうことか。
沈没船にはサンゴが生え、魚の隠れ場所となっている。
もともと、大砲の向く先には海が見えたはずだが今は植物たちが覆い隠している。
軍用車が通れるだけの幅があったはずが、今では大木が生えている。
人が出入りしていたはずのトーチカは水につかり、土に埋もれている。
東洋のガラパゴスは戦争に利用され、あるべきではないものがそのまま残っている。
しかし、そこは人間以外の住処として元の姿へ戻りつつある。
次第に石垣や建物はジャングルの中に消えていくだろう。
ジャングルに埋もれた戦跡は一味違った平和の象徴かもしれない。
「なにがあったのかよくわからないね。
まだ、人間が戦争をしていた時代のものが眠っているらしい」
訪れたものがそう話すときまで、あとどれくらいかかるだろうか。
山の中にアメリカの戦闘機ムスタンクが墜落し、
そのままになっているところがある。
そこには「Rest in Peace」と刻まれた石碑が建てられている。
墜落死した人へ「安らかに眠れ」と祈り
世界に向けて「平和であり続けますように」と祈っているように感じた。