ネパール語でチャイのことはチヤと呼ぶ。
登山家としてランタン周辺の人類未踏峰に次々と挑戦しているガルグが
先祖代々200年以上、住み続けているという家に招待してくれた。
まだ、1歳に満たない子供に飲ませるのはチヤだ。
もちろん、僕に出してくれたのもチヤだ。
親子、客人揃ってみなでチヤを飲みながら話をする。
ガルグが子供のころ、おばあちゃんがチヤを淹れてくれたという。
そういえば、11歳のシエダラくんも僕に当たり前のようにチヤを淹れてくれた。
チヤはネパールの話の席に無くてはならない存在だ。
みんな紙コップ1杯分のチヤを30分以上かけてゆっくり飲んでいく。
気づけば話は盛り上がって、熱々だったチヤは冷めきっている。
コップが空になってしばらくしてから、誰からともなく席をたつ。
まるでチヤが無くなったから終わりにしようとでも言うように。
「それじゃ、またここで」
そんな軽い感じで去っていく。
ネパールを好きになったのは
この習慣が気に入ったからだと思う。
人と会って話す時間を大切にしている。
いや、そういう時間が毎日あるのが当たり前ていう習慣。
特別に時間をさいているわけではない。
そんな習慣がとても羨ましかった。
僕の好きな国オランダにもそんな習慣がある。
オランダではチヤではなくコーヒーがその役を担っている。
晩御飯を食べ終えると家族が揃ってリビングでコーヒーを啜りながらお喋りを楽しむ。
どの街にもカフェがたくさんあり、やはり昼過ぎになると人々が群がってお喋りをしている。
オランダのカフェは日本の居酒屋のように声が飛び交っている。
オランダは子供が幸福だと感じている割合が世界で一番だ。
日本にもお茶を飲む習慣があって
やはり人と会って話すときも
「お茶を飲もう」って言う。
今は日本茶じゃなくてもコーヒーや紅茶なんか飲みながら会話をする。
そーいえば、いつからか親と同じ空間でコーヒーを飲まなくなったな。
そーいえば、いつからか友達とお喋りするのに日時を決めなくちゃいけなくなったな。
日本に帰ったらチヤを淹れようって思った。
自分が飲むためにじゃなくて
誰かとお喋りするために
みんなが揃ってお喋りするとき
ゆっくり話せるように熱々のチヤを淹れよう。