ネパール旅編　第三話～僕のガイド・シエダラくん～

「グッモーニング！よしき！うちで朝ご飯を食べよう！」

朝7時にシエダラくんがロッジに迎えに来てくれた。

 

グッモーニング、シエダラ！君の家はどこにあるの？

「隣の町さ。ここから40分くらいかな。」

 

なんと、朝早く起きて俺を迎えに来てくれたみたいだ。

今日一日、ぼくのガイドを務めてくれるらしい。

ぼくはすれ違うハイカーに、現地民に誇りを持ってこう言った。

 

彼はぼくの小さなガイドさ。とても親切なんだ。

 

ランタン村の隣にあるムンドゥという集落は

チベット系民族が暮らす10数軒の小さな集落。

その一つのシエダラくんの家に招待してもらう。

ナマステ～！（こんにちわ）

 

家に入るとお母さんが優しい笑顔で挨拶をしてくれた。

「シエダラがあなたを連れてきたいって昨日言ってたのよ。ゆっくりくつろいで行って」

 

シエダラくんは一緒に歩いているときにこう言っていた。

「よしきのことをお母さんに話したら、連れてきなさいって言われたんだ。」

 

どちらが本当のことを言っているのかはどうでもよくて

ふたりの言葉の優しさがとても心に染みた。

 

ダンニャバード！！（ありがとう）

 

お母さんが目の前でチベットの郷土料理チベタンブレッド（米パン）を作ってくれた。

それとチベタンティー（紅茶にヤクバター）もたんまりご馳走してくれる。

 

チベタンブレッドはこの旅ではまったパン。

シエダラくんが正しい食べ方を教えてくれる。

 

ミト！（うまい）

外国人相手に商売しているネパール人は英語が堪能だけども

現地の言葉は現地の人と近づくには必要不可欠。

 

標高4000ｍ近くのこの家の真ん中にあるカマドの火が身体を温めて

彼らの手作りの料理が心を温めてくれる。

 

うんまい means very very delicious in japanese.

 

「うんまい」

シエダラくんが小さくつぶやいた。

それがとても嬉しかった。

 

発展途上国特有の勧誘や客引きが山奥でも行われていて

なえていた僕を

シエダラくん家族は一気に癒してくれた。

彼らは決して一度も親切を売らなかった。

 

家には何枚か外国人の夫婦が移っている写真が飾ってあった。

「5年前にもゲストがここに来て、お茶を飲んでいったのよ」

お母さんは観光客相手に商売しているわけではない。

ただ、純粋にお茶を楽しんでいた。

 

「帰りにもまた寄りなさいね。またティーを飲みましょう。」

 

髪型を整え、暖かい服に着替えたシエダラくんとともに

今日の目的地キャンジンゴンパへ向かう。

シエダラは将来何になりたいの？

「システムエンジニアさ」

 

ネパールは今、急速に近代化している。

しかし、取り入れているのは上辺だけの近代化で、

ごみ問題、環境問題、薬物問題は放置され続けている。

標高4300mのキャンジンゴンパの裏にはごみがそのまま放置されている。

 

システムエンジニアになりたいのなら、日本に勉強しにおいで！

うちに泊まればいい。

「わかった！絶対日本に行くよ！約束だぞ！」

 

シエダラくんと別れるとき、旅の名刺をあげた。

彼が選んだ写真は尾道の夜景だった。

 

ネパールの近代化はきっと止まらないだろう。

あらゆる問題もおそらく大きな問題になるまで誰も止めないだろう。

ランタンを「世界で一番美しい谷のひとつ」と紹介した冒険家ティルマンは

そのとき、「ローインパクトの法則」を掲げた。

 

人が入っていくことで自然への影響を最小限に抑えること

人が入っていくことで文化への影響を最小限に抑えること

 

そして、ぼくは思った。

 

お金が入っていくことで心への影響を最小限に抑えること

 

それは誰にも気づかれずに進行していくに違いない。