まだまだ、帰りたくない
初めての海外一人旅、帰国便を待つ僕はノートにそう書いた。
日本という国から直行便で10時間以上。
オランダの国土は九州とほぼ同じ。
そんな小さな国を3週間旅して、
当時22歳の僕は日本の狭さと世界の広さを知った。
日本で得た道徳とかマナーとか常識は何一つオランダにはなかった。
なのに、なぜか生きづらさを感じなかった。
日本で見てきた人々は、当たり前だけどオランダ人ではなかった。
なのに、日本人よりもすぐに仲良くなれた。
幸せがなんなのかは分からないのに、
オランダ人はとても幸せそうに生きていた。
自由がなんなのかわからないのに
オランダ人は自由に生きていた。
真っ白だったノートはどんどん埋まっていった。
帰国便の中でもペンは止まらなかった。
今まで生きてきた社会と初めて感じた世界との違いが
僕に様々なことを考えさせる。
帰国してから5年経った今でさえ、思い出すことがある。
気づかされることがある。
「違い」は人にいろんなものを与えてくれる。
帰国してから親友の誕生日に合わせてアルバムを作った。
旅の間撮ってきた写真と、
感じたことをメモのように端っこに書き足した、とてもシンプルなもの。
誰かとこの旅を共有したかった。
この新しい気持ちがこの旅の一番の収穫だったのかもしれない。
そして、「旅の写真と言葉たち」というブログを立ち上げた。
タイトルのまま、旅で撮った写真と旅中にメモした言葉を原文のまま載せている。
オランダ人はオランダという国をとても愛している。
僕が「オランダ語を勉強している」と短いオランダ語で話すと
みんな嬉しそうな笑顔を浮かべてこう言う。
「Dank je! Echt blij!」(ありがとう!本当にうれしいよ!)
オランダ国民であることが誇りのようだった。
街で話しかけてくれた人たちは
みんなその街のガイドを、気づいたら始めている。
おかげで僕はどんどん詳しくなる。どんどん好きになる。
日本に帰ったら日本を旅しようと思った。
もっと、日本のことを知ろう。
僕は外国人にガイドできるほど日本のことを知らない。
しかも、5年前はあまり良い国だと思っていなかったから
知りもしないくせにそう思っていることがなんだか恥ずかしくて
ぼくはしばらくの間、日本を旅しようと思った。