ライエル渓谷をさかのぼっていく、
この旅初めて森林限界を超え、
見晴らしのいいドノニュー峠に立つ
このトレイル上の森には
たくさんの鳥が住んでいる。
森が生きている証拠は鳥の歌声でわかると思う。
水が流れる音と鳥の歌声が溶け合い
気持よく昼寝ができる。
青い空が目の高さに広がり、白い山々がそびえ立ち
森林は遠くに望まれる
静けさが僕を取り巻き、
この世界にただ一人きりなのではないか
そんな気にさせる
ひとり下り坂を降りて、かろうじて木のあるエリアにテントを張る
ふと見上げると青い空に白い線が伸び、
ぶぉぉぉぉん
次いで、飛行機の音が静寂を破る。
いま、テントを張ったここは
AnselAdamsWildernessエリアで
あらゆる人工物の建設及び開発が禁止されている。
もちろん、木の伐採や狩りも。
河を渡るための橋すらない。
そして、ここにたどり着くには小さな田舎町から半日かけて
車で山の麓のキャンプ場に行き1泊。
さらに歩いていくつかの峠を2日かけて越えてやっとたどり着く。
そんな山奥にも人工音はあった。
この旅、一番の驚きだった。
あの遥か上を飛ぶ飛行機の乗客は誰もじぶんのすぐ下に広がる山脈の真ん中で
コーヒーをすすっている人を想像できないだろう。
そして、同じように自分たちが大きな騒音をこの山奥に響かせていることも知らないだろう。
もう、この地球上で人工音のしないところは
南極と北極、深海だけなのではないか
ふと、そんなことを考えてしまう。
後日、テントで寝ていると鳥たちが騒ぎだすほどの爆音が
森のなかに轟いた
音の正体はセスナ機。
なぜ、セスナ機が上空を通ったのかは分からないが
初めて聞いたとき、恐怖の何者でもなかった。
そして、鳥たちにとってそれは今もなおのことに違いない。