John Muir Trail 19日目　～ぼくは一本の樹になろう～

朝、目が覚めると

テントの前にジップロックが３枚置いてあった。

ん？晩御飯のときにしまい忘れたのかな？

 

今日の予定はいつもの半分なので、

いつもよりゆっくり起きた。

やけ寝のおかげで10時間は寝たようだ。

 

そう、昨日動かなくなったカメラ。

さっそく、もう一度試してみる。

 

・・・反応なし。。。

 

仕方ない。

とりあえず、動きだそう。

サブカメラで変わらずに気に入ったものを、撮り続ける。

 

ふと、顔をあげると昨日の老姉妹が休んでいた。

「Good morning!sisters!」

近寄って声をかける。

 

「Hi!!yoshiki!how are you?」

 

「元気だよ！でも、カメラはやっぱり動かないや。」

 

「テントの前に袋を置いてあったのに気がついた？

それにカードを入れておけば安心だと思って。

それにね、私の夫がカメラの先生をやってて、一度見てもらったらどうかと思うの。」

 

彼女たちが置いてくれたみたいだ。

メモリーカードや予備バッテリーなどの収納のために

ジップロックをたくさん持ってきていたとはいえ、

こうして、親切に触れるともう落ち込むこともない。

気持ちがよくなる一方だ。

 

「Thank your so much...and where are you going today?」

 

「Rae lakes」

 

「Oh,me too!」

 

彼女たちとまたの再会を約束して先に行く。

途中、気持ち良い小さな湖を見つけて休むことにした。

 

木立並ぶ湖のほとりに座り

そっと目を閉じて

深く深く深く深呼吸。

 

ここまでの旅を思い出しながら

 

風のきれいな音を、

鳥の歌声を、

虫の笑い声を

木々のささやきを、

湖の穏やかなゆらめきを

 

頭の中でイメージにかえる

心の中でメッセージにかえる

『僕は一本の樹になろう。

きみの笑顔は太陽だからぼくを大きくしてくれる。

 

僕は一本の樹になろう。

きみの涙は雨だからしっかり受け止めて大きくなろう。

 

僕は一本の樹になろう。

きみの歌は小鳥だから僕のとこで歌ってくれないか。

 

僕は一本の樹になろう。

きみは永遠の旅人だから僕のとこで休んでいけばいい。』

ふと、目を開けると

小鳥が手の届きそうなところを歩いている。

トンボが膝にとまっている。

 

また、目を閉じる。

 

『僕は一本の樹になろう。

時はいつか僕を倒すだろう。

運命を受け入れて、良い土になろう。

 

僕は一本の樹になろう。

朽ちていく僕を水や風が運んでいくだろう。

自然に任せて長い旅に出よう。

 

僕は一本の樹になろう。

長い旅の終わりに凍えるきみに出逢うだろう。

喜んで光を放ち、きみの消えない炎になろう。』

よしっ！

このサブカメラでしっかり撮っていこう！

今までの旅すべてに持ってきたこのカメラでなにも不足はない。

自分の目の前にあるものにしっかり向き合うんだ。

 

Rae lakesでもう一度、老姉妹と再会し夕食後に話をすることになった。

テントを張り終え、湖で泳ぎ、昼寝をする。

夕食を食べて、二人のもとへ行く前にカメラをもう一度試してみる。

これが最後だ・・・

そう、心の中でつぶやく。

 

・・・うごいたーーーーーーー！

急いで支度して二人のもとへ走る！！

 

「Hey!キャシー！ヘレン！Camera get to work！！unbelievable」

 

愚痴というのは誰かに聞いてほしくなる。

でも、それ以上に幸せな報告というのはすぐに話したくなる！

そして、聞いてほしい人に放すのが一番だ。

 

ふたりと美しい夕暮れ時を一緒に過ごす。

お互いのはなし。

なぜ、僕がこのトレイルを歩いているのか

 

今までの旅のはなし

これからの旅のはなし

ぼくのつたない英語に耳を傾けてくれるふたり

ぼくに伝わるように何度も違う言い回しをしてくれるふたり

 

ふたりとは今夜で別れることが分かり

握手をし、記念撮影をする。

 

手を振りながら、少しずつ離れていく。

すると、キャシーが大きな声で

 

Good luck！

Our little brother,Yoshiki！

 

僕は大きく手を降る。

 

Thank you！thank you very much！see you again！

暗闇はすみわたり、星々が瞬く。

明るい闇が僕を包み込む。

 

今日という日に

僕は今にも泣き出しそうだった。