<悠久の時を旅する vol.1原生林で会いましょう>
2021.9.17-18@大室山原生林・青木ヶ原樹海
今回の旅は山岳ガイドの河野格と企画した。
お互い星野道夫の世界観に惚れたなかで、意気投合しているうちにこの企画ができあがった。
その2日間を振り返りたい。
久しぶりに旅をした気がした。
久しぶりに旅を歌を聴きたくなった。
俺にとって旅とは原生林の中で過ごすことだった。
そんなことを思い出す2日間だった。
思い返せば、もともとは現実逃避のために原生林に向かっていた。
今から十年以上も前の話だ。
できるだけ現代社会から遠くの世界へ、誰もいない世界へ
そんなことのために原生林に向かっていた。
原生林の世界は何もかもが人間の世界から遠く離れている。
そこには現代社会の時間がない。
音もないし、色もないし、形もないし、景色もない。
現代社会にあるそれら全ては擬似自然であることがよく分かる。
だから、原生林の中には嘘がないし、嘘がつけない。
原生林の中では多くのことを語る必要はない。
語れば語るほど、嘘が積み重なってしまう。
だから、簡単なレクチャーだけで済ませることにした。
あとはそれぞれが五感を使って、原生林が紡ぎ出すエネルギーの波を自身の体の中で振るわせるだけだ。
そんな2日間にしたかった。
今回の旅で原生林はその強さと弱さを見せてくれた。
大室山原生林の中では二つの側面がわたしたちと取り巻く。
悠久の時をかけて作り出されたブナの巨木林と
それらを一瞬にして消し去った噴火による溶岩流に、その上を覆い尽くして悠久の時をはじめる生態系。
その境(エッジ)は残酷なほどにはっきりと描かれる。
しかし、生態系はそれすらエネルギーに変えてしまうのだから、強さも弱さも生命の本質なのだと気付かされる。
今回の旅のハイライトは早朝の青木ヶ原樹海だった。
旅の数日前のミーティングで決めたこの早朝の旅は大正解だった。
朝の森は美しい。原生林は特に。
森のすべてが青く染まり、妖しい光と玄奥な影が明暗を作り出す。
その中を歩くとき、人は感性が研ぎ澄まされる。
そこには生死が入り交じった時間が流れるようだ。
普段ならこの時間を歩くことはないだろう。
それほどこの時間は特別な時間なのだ。
原生林が原生林である理由はこの時間にある。
青木ヶ原樹海の中にある巨木の前で誰もが足を止めて、静かに時を過ごす。
誰かがそう言いだしたわけでもないし、相談したわけでもない。
強い雨が降るなか、自然と人々が巨木を取り囲んで、思い思いに身体を震わせたのだろう。
原生林はいつだって静かに優しくあなたの身体に語りかける。
悠久の時にリズムを合わせるときにはじめてその語りに気づく事ができるのだ。
普通に歩けば数時間で事足りる距離を2日間ゆっくりとただただ過ごした。
原生林の中で流れる「悠久の時」に合わせることが、
私たちの身体が人間社会で慣れてしまった狭くて浅い時空を一気に引き延ばして深く潜らせる。
そして一度その悠久の時を知れば、現代社会に戻った時にいつでも思い出せる。
それを思い出せる事がどれだけ日々を豊かにしてくれるのかは、原生林で過ごした人にしか分からない。
それを味わってほしかった。
だから、今回の旅はまだあなたの心の中で続いていく。
日本の原生林はどこも同じではない。
どこにもその原生林の歴史があり、人との繋がりがある。
地球と生態系が織りなす光と影がある。美しさと残酷さがある。
これから少しずつみなさんとともに日本の原生林を旅しようと思う。
それでは、原生林で会いましょう。