<久住・黒岳原生林の旅 落ち葉の絨毯>
1日目 2022.11.11 男池湧水群~黒岳原生林~大船山~坊ガツルキャンプ場
まさに秋晴れという言葉がふさわしいほど、空高く蒼が広がる。
秋の深まりとともに冬の訪れを木の葉が教えてくれる。
足元には落ち葉の絨毯が広がる。
道はなんとかその形を残している。
落ち葉の上を歩くときの音が嬉しくて、気持ちは高ぶっていく。
観光地である湧水群から先は人が一気に減り、原生林が姿を現してくる。
日本で「原生林」といっても地域によって表情は様々だ。
九州本土唯一の原生林と呼ばれるこの黒岳原生林は他の原生林とは違う特徴がいくつかある。
ここ黒岳原生林はくじゅう連山の端っこにある。
くじゅう連山自体は20万年程前に主に西部の山岳が火山の噴火によって誕生した。
その後いくつかの噴火によって次第に東側の山々が形成され、
最後に約1700年前の古墳時代に誕生した新しい山が黒岳である。
黒岳の名称の由来は火山によって生まれた黒い山だからではない。
黒という言葉はいわゆる黒色の色を意味する他に「豊かさ」を意味している。
つまり、黒岳は黒々と豊かな森林が残っていることを表した名前なのだ。
その名にふさわしく黒岳原生林には様々な樹木が、それぞれの色で満ちている。
黒岳原生林の特徴はなんといっても多種多様な広葉樹の多さだろう。
日本の多くの原生林はほとんど紅葉しない針葉樹林帯か、ほとんどブナだけで形成された樹林帯のどちらかである。
黒岳が生まれて間もない山にも関わらずこれほど植生が進んでいる理由は温暖な九州という気候が大きい。
黒岳の周辺には温暖な気候の最終植生である照葉樹の木々も見かけることができる。
それに加えて標高が1500mほどもあるためブナ林が生息するほどの寒さもある。
黒岳原生林の地面にはカエデやモミジ、ニシキギなどの鮮やかに染まった落ち葉が広がる。
そこから顔を出すかのように黒い岩石にまとまり着く濃ゆい苔の緑が鮮やかだ。
樹木たちの根は岩石を掴み、大地に深く潜り込む。まるで舞い踊るかのように。
樹木たちの枝は空に向かって伸び、大気に深く混ざり合う。まるで物語を語るかのように。
たかが数時間の原生林の道も、彼らの歴史と今を思いながら歩くだけで
飽きることなく歩くことができる。
ときに彼らの姿をカメラに収め、言葉を紡ぎ、言葉にならない思いをそのままにして。
ゆっくり自分の呼吸を、身体を、こころを浸していくように原生林を歩くと
ここに来るまでの日々を忘れてしまう。
いや、忘れさせてくれる。
いまはここに生きよう。いまはここで生きよう。
原生林はいつだって、僕らを包み込んでくれる。
その勢いは覆い尽くしてしまうと言った方が良いかもしれない。
彼らには僕らを同じ生命(いのち)として扱っている節がある。
それはときに厳しいのだが、ときに優しいものだ。
そんなことをじっくりと感じて過ごす。
温かいコーヒーと携帯食を頬張り、原生林を後にする。
今日の目的地は法華院温泉とその眼前に広がる坊ガツルのキャンプ場だ。
この原生林とはまた一味も二味も違う自然の中でテントを張る。
この坊ガツルに広がるススキ畑は毎年大規模な火入れによって維持されている美観地区だ。