原生林に流れるアニミズムの世界

<原生林に流れるアニミズムの世界>

@白山の旅 チブリ尾根原生林 2023.7.20

 

朝早く、チブリ尾根の足元に広がる原生林に足を踏み入れると巨木たちが私を見下ろす。

優しく見守りながら、きめ細やかなに監視されているようでもある。巨木の合間を曙の光が漏れる。やはり朝の原生林は格別に美しい。

 

私は巨木のことを「カミ」と呼んでいる。文化人類学の世界ではアニミズムの「カミ」と他の宗教の「神」を分けて研究がされている。

 

私は世界中の旅している中でさまざまな宗教に触れてきたが、結局今はアニミズムの世界に惹かれ、そして自身の旅と暮らしを通じて探求している。

 

ラテン語のアニマとは生命、命、精霊、霊魂を意味し、「自然の万物にはこのアニマが宿っている」というのがアニミズムの世界観である。

 

日本の古神道はこのアニミズムが根源にある。森羅万象の中には生命として、精霊として、霊魂としてのアニマが宿っている。それがカミであり、タマである。

 

だから神道の神事にはタマを揺さぶったり、治めたり、清めたりする。そしてカミを感じ、タマが高ぶるものを御神木として、ご神体として祀っているのである。

 

アニミズムは古いものとして過去のものとして扱われがちだ。西洋文明(進歩主義者たち)では古いものは劣っていると考える。進歩したものが善であり、優れていると。

 

しかし、現代の宗教学や文化人類学ではその見直しが進んでいる。多くの学者がアニミズムの世界と環境問題とのつながりを指摘し、これからこの地球で調和をもたらす世界観はアニミズムにあると考えている。

 

アニミズムはパーソナルなカミを信仰する。つまり、あなたが美しいと感じるもの、あなたに喜びを与えてくれるもの、あなたを安心させてくれるもの、あなたに慰めを与えてくれるもの、あなたが畏敬の念を起こさせるもの、そういうものは全てカミが宿っていると考えるのだ。石ころだろうと、虫けらだろうと、巨岩だろうと、巨木だろうとあなたの魂が揺さぶられたものにカミが宿っているのだ。

 

代わって他の宗教の神は公共の、共有の神、つまり共同幻想ということができる。そして、決まって神は人の形をしているし、必ずどう生きるべきかを示した啓典がある。

 

アニミズムの世界観を日本で分かりやすく言葉で示してくれたのが山尾三省さんだ。私も山尾さんの本をいくつも読んだ。そして、文化人類学者としてアニミズムの世界を深めてくれたのが岩田慶治さんだ。もし、あなたがアニミズムの世界について触れたいと思ったらこの二人の書籍をオススメしたい。

 

山尾さんは屋久島の山奥に佇む巨木のことを「聖老人」

と呼んだ。聖老人たちの樹齢は数千年だ(樹齢1000年以上の杉を屋久杉と呼ぶ)。しかし、屋久島の原生林のように樹齢数千年を超える巨木は日本では珍しい。

 

ここ白山の麓に広がる原生林に佇むカミたちの樹齢は数百年ほどだろう。これは樹種の違いもあれば、風土の違いもある。この辺りの話はまた屋久島の旅のときにしよう。

 

私は原生林のカミガミの足元を縫うように歩いていくとき、まるで自我をなくしていくような感覚に陥る。私は彼らをカミガミと呼び、尊敬し、畏敬の念を持って歩くのだが、彼らからまるで「同類だよ」と囁かれているような気がするのだ。

 

山尾さんはこう言う。

『心が奪われている。私という自我をなくしたとき、本来の私が現れてくる。それが「まこと(真事)」であり、アイデンティティの正体』だと。

 

東洋思想の中でもアニミズムの色が濃く残る思想や宗教では西洋の分離の世界観二元論とは大きく違う。融合の世界一元論には上下も優劣も強弱もなく、すべてがみな同類として親和しあう。

 

私が巨木にカミを感じ、タマが揺れるということは私の中にもカミが宿り、通じるタマがあるということなのだ。同類だからこそ、カミを感じることも、タマが揺さぶられることもできる。そして、その瞬間に私と巨木はつながるのである。

 

森羅万象、諸法無我。私が歩くとき、カミガミもまた揺れる。カミガミが倒れるとき、私もまた生き返る。私が飲む水はカミガミが生み出した水。私が吸う空気はカミガミが生み出した空気。私が吐く空気はカミガミが吸う空気。私が受け取る光はカミガミが透き通した光。

 

ブナ、カツラ、トチノキ、ダケカンバ。

何一つとして同じ形もなければ、同じ生き方もしていない。それぞれが自身のカミを体現しているようでもあり、それ自身がカミでもある。やはり、私もまた同類であり、あなたもまた同類であるようだ。

 

原生林の不思議さはここにある。畏敬の念を起こしつつも親和性を感じてしまう。人間が生きるには過酷な環境にも関わらず、ずっとここに居たいと思ってしまう。その妖しさもまた原生林の魅力である。

 

原生林から湧き出す澄んだ水を頭から被って、息を深く吸いて吐き出す。見上げればカミガミの木の葉が揺らめき、光をもって道を示す。

 

その静寂を破るようにドカドカと足音を立てて降りてくる登山者が「暗い道ですね」と文句を言う。私はハハハ、とニンマリして彼らに「お疲れ様です」と水を渡す。私は「キレイな森ですけどね」と小さくつぶやく。彼らははじめて顔を上げてカミガミと目を合わせる。湧水を沸かし、コーヒーを淹れながら、カレらの話を聴く。

 

巨木の森を私は「カミガミが宿る森」と呼ぶ。人によってはそれはただの薄暗い森であり、経済効果の低い森なのかもしれない。私とその人たちの違いは宗教の違いだとか知識の違いだとかそんな表面的なものではない。

 

感じているものが違うだけであり、何を大切にしているかの違いなのだ。人間は何かを知ることよりも、何かを感じるときに初めて、世界が大きく開けるのである。そのとき、はじめて自身の中に宿るカミに気がつける。

 

あなたが何を知っているかよりも、あなたが何を感じているのか。それがカミガミの森を歩くときに必要なことなのだ。アニミズムの世界は原生林でこそ、味わうことができる。いや、原生林だからこそアニミズムが生まれるのである。

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そのまんま、自己紹介です♪

Journey's Diary

 

大学卒業後、国内国外旅してきて

 

撮り続けた写真と綴ってきた言葉を

まとめたものです

 

長くて多いので

暇な時に読んでください♪

Book of my journey

 

ひとり旅をはじめてから

カメラとノートを

常に持ち歩くようになりました。

 

その風景写真と短い言葉たちを

アメブロにて公開していました。

そのページをまとめたものです。

 

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