<日本の氷河と雪渓>
@立山・内蔵之助氷河 2023.9.24
実は日本にも氷河がある。という話を知っている人は意外と少ない。というのも少し前まで日本には氷河がないと考えられていたからだ。
まず氷河とは何かということを説明しておきたい。
一年中雪や氷が融けずに残っているものを雪渓と呼ぶ。これは日本全国の標高が高い山にはあるから決して珍しいものではない。白馬岳の麓にある大雪渓など特に有名だ。ものすごく簡単に説明すれば、この雪渓が動いていれば氷河として認定されるのだ。
白馬大雪渓は日本最大規模の雪渓にも関わらず、雪渓の下がトンネル状になっていて流動が確認できないため氷河として認定されていない。すぐ近くにある唐松岳の唐松沢雪渓は2019年に日本で7番目に氷河と認定されたのだから、不思議だ。
立山連峰(劔岳も含む)には日本の氷河がなんと5つもある。2012年にはじめて氷河認定された御前沢雪渓、三ノ窓雪渓、小窓雪渓。2018年には内蔵助雪渓、池ノ谷雪渓が認定される。他の氷河は鹿島槍ヶ岳のカクネ里雪渓と前述の唐松沢雪渓である。
そのなかで劔岳の近くにある小窓雪渓と富士ノ折立の裏側にある内蔵助雪渓は直に氷河を触ることも、その上を歩くこともできる貴重な氷河だ。内蔵助雪渓の氷は日本で一番古い氷だという。
小窓雪渓は上級者向けのコースだが、内蔵助雪渓はほんの少し横切る程度なので、気楽に氷河を体験できる。近くに山小屋もあるので泊まって、翌朝に朝陽に染まる氷河を楽しむのも良いだろう。
北海道や東北といった緯度が高いところではなく、本州の内陸部に氷河があるのも意外に思えるだろう。もちろん、理由がある。氷河認定された雪渓が日本海側の山であることがポイントだ。
この両地域は本州のみならず日本全国、いや世界的に見ても大豪雪地帯とも言える地域なのだ。冬の大将軍という言葉をテレビなどの天気予報で聞いたことがある人が多いと思うが、これはユーラシア大陸北部に居座るシベリア気団のことだ。この気団が何かしらの理由で勢力を拡大すると本州付近まで降りてくる。するとよく見慣れた西高東低気圧配置となり、強い北風が吹く。
本来、大陸から吹く風は乾燥しているのだが、日本列島にたどり着く前に温暖な日本海流の湿気を吸収することで大雪の元となる。そして、標高3000M級の山々に直接ぶつかることで湿った重たい雪が降るというよりも、そのまま着地するのだ。
北海道や東北地方でも同様のことが起きるのだが、この地域には3000M級の山々がないため、山頂付近の積雪量は立山連峰や白馬岳連峰と比べると少ない。
日本海側の豪雪は重たい。さらに海から山にダイレクトに届くため、この地域の山々は夏でも急な天気不良に遭いやすい。そのため遭難事故や滑落事故なども多く発生する。
そう考えていくとやはり氷河というものは美しさと雄大さを兼ね備える珍しいものというイメージとともに、危険と隣り合わせの存在だということがよく分かる。
私が歩いたこの時期は一番雪が少ない季節だったが、春から夏にかけては雄大な氷河歩きを楽しめる。少し下ったところにあるカールを歩けば、数万年前の氷河時代にはもっと大きかったことがよく分かる。このモレーン歩きもまた氷河の足跡だ。
立山登山ではアルペンルートを使ってしまえば市内から日帰りも十分に可能だが、山の楽しみは登頂だけではない。ぜひとも立山三山登頂後には内蔵助氷河に寄ってもらいたい。さらに内蔵助山荘に泊まって翌日に朝陽を拝むのも良いアイデアだ。もしくは雷鳥沢まで下って温泉に入って休むのもオススメだ。
立山はピストン登山ではもったいないほど魅力が多く散りばめられている。いや日本の山はどこも多様な魅力に溢れているから、違うルートや行程を楽しんでもらいたい。