自然遷移と純林

<自然遷移と純林>

@立山・瀬戸蔵山と大品山 2023.9.26

 

立山連峰への入口がある立山鉄道の終着駅立山駅の近くには美女平以外にもオススメの原生林がある。

それは駅の南側にスキー場が並ぶエリアの横にひっそりと佇む。

入り口はあわすのスキー場で、少し登ると夏には水遊びをしに親子が集まる百聞滑があり、そこからさらに少しばかり登ると龍神滝、そして天然スギの巨木が立ち並ぶ。

 

美女平原生林と同じくここには物語が始まりそうな名前がつけられた天然スギの巨木がたくさんある。その中の一つ龍神杉はその名にふさわしく、龍のダイナミックな動きがそのまま映し出されたかのような姿をしている。

 

百聞滑までは里山の気配が残っているが、龍神滝あたりから森の植生は次第に里山ではあまり見られないものとなり、この天然スギの巨木林に入るとまるで別世界に来たような感覚になる。入り口からたった30分ほどでこの森のなかに入れるのだから、日本の原生林へのアクセスの良さにはびっくりする。

 

もちろんここもおそらく昔から多くの神話と民話の舞台となり、残された森だろう。ここでそんな風景を思い描きながら、静かにコーヒーを飲む。そんなひと時がしたくて私は原生林に踏み入る。

 

ここでも十分原生林の深さを味わうことができるのだが、ここから先にも是非足を運んでもらいたい。なぜなら、さらに山を登っていくと天然スギの巨木は次第に点々を残るのみとなり、ついには姿を消し、みごとなブナの純林に出逢うからだ。瀬戸蔵山山頂周辺には誰かに紹介したくなるほどブナの純林が残っている。ブナの純林つまり極相林には多様性がないが、その異質な豊かさに圧倒される。

 

本州の寒い地域、とくにスキー場ができるくらい雪が降る地域の最終植生(クラマックス)はブナの純林となる。日本全国にはまだまだブナの極相林が残っている。

 

里山にほど近いブナ林は戦後の「ブナ退治」とそれに伴う拡大造林でほとんど伐採されてしまったが、アクセスの悪いブナ林や日本海側など主要都市から遠い地域のブナ林は伐採を免れることができた。もしかしたら、この地域のようにスキー場に変わってしまったブナ林もあったかもしれない。

 

ブナの純林はブナ好きにとっては最高の景色だろう。初夏の新緑、夏の深緑、秋の紅葉と登山シーズンのブナの純林はずっと見上げてしまうほど美しい。ブナ退治の理由はその木材としての利用価値の少なさと言われていたが、実際に山奥に住む人々にとってブナはお椀やしゃもじに加工しやすい木材であり、貴重な収入源のひとつだった。さらに木を刈っておいておけば野生のキノコが宿り、それもまた収入源としても食材としても貴重だった。そしてあまり知られていないがブナの新芽は春の山菜のひとつで天ぷらにすると美味しい。またブナのドングリの新芽はもやしのようにして食べることもできるという。ドングリ自体も渋が少ないので食用としても絞って油をとることもしていたようだ。

 

実は戦後にもっとも必要とした建築材としては利用価値がなかったが、それ以外の面で見ればブナは利用価値の高い木材だったのだ。だからこそ戦前までは里山のすぐ近くまでブナ林は残されており、利用されていたのだ。結局のところ、都市部の人たちの価値観や思考で里山の資源を見てしまうとろくなことにならないのは昔から変わらない。

 

この見事なブナの純林の先をさらに大品山方面に登っていく。すると大品山山頂周辺の開けた大地にはダケカンバの純林が残る。ブナ林からさらに標高を上げて寒くて乾燥が強い地域になると幹や枝がくねくねと空に舞うダケカンバが極相林となる。ダケカンバの新緑や紅葉も見事だが、11本その姿に私はいつも感心させられるし、魂が揺さぶられる。この厳しい環境の中で必死に生きているのが伝わってくる。

 

ブナにしろ、ダケカンバにしろ、極相林の純林はみごとだ。里山とは違って、山奥まで行かないと見れられない景色だ。普段は多様性の美しさに惹かれるが、純林もまた誰かに話したくなる美しさがある。

 

この地球の生命体はどうやら多様性に向かって進化しているように思える。しかしその中でも極相林は純林であることが多い。これは不思議に思えるかもしれないが、この極相林もいずれは多様性に向かう。その時間の尺度は人間からすれば恐ろしく長い。

 

生物学や森林生態学では極相林を「安定」した植生と呼ぶが、実際のところはそうでもない。ブナの寿命は数百年程度であり、ダケカンバも同じくらいだという。

 

ブナは陰樹だが、ダケカンバは陽樹だ。スギもまた陽樹である。本来極相林は陰樹の樹木になるのだが、日本の原生林の場合は自然撹乱が多いので、陽樹が占めることが多い。

 

スギもダケカンバも群れとなり、そして根性ある姿をしているのはその土地がとりわけ厳しい環境であり、小さな自然撹乱が多く発生している証拠だろう。そのため他の樹木が簡単に成長できないのだ。

 

逆にブナの純林があるということは比較的安定した環境ということになる。同じ山で、ぱっと見同じ環境に見えるにも関わらず、そういった違いがあるということを植生は教えてくれる。

 

天然スギ群からブナ・ダケカンバの純林へと向かう道の途中に小さな岩屋と巨木が同居するスペースがある。この山にも「蔵(クラ)」という文字が当てられていることから、古代から信仰の山だったに違いない。天然スギの巨木にもブナ・ダケカンバ純林にも、そして山そのものにもカミを感じ、丁重に扱われていたのだろう。

 

大品山からさらに奥には日本300名山の鍬崎山がある。大品山山頂から少し歩くと鍬崎山を眺めることができる地点があるが、そこから見る鍬崎山もまた深い森であることが分かる。登山地図によると大品山から往復5時間半。

 

今回は午後から天気が悪くなる予報なので、ここから先はまたの機会にしよう。鍬崎山もまた奥が深い森に違いない。なぜなら麓の集落には「朝日さす夕日輝く鍬崎に 七つむすび七むすび 黄金いっぱい光り輝く」という里歌が伝わっており、佐々成政(内蔵助)の埋蔵金伝説が残っている。佐々成政はあの内蔵助氷河の地名の由来の人でもある。また、立山に原生林と物語を求めて戻ってこよう。

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大学卒業後、国内国外旅してきて

 

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その風景写真と短い言葉たちを

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そのページをまとめたものです。

 

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